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2011.05.26 Thu
絵の権利は
「サクラバコ」の浅野ハコさんにあります。

線画、塗り絵は両方ともハコさんです。

私に権利がありませんので、よろしくお願いします。


続きを読む以降は私の書いた話です。
銀魂の世界観を基にしておりますが、公式なものではまったくないので、覚悟を決めてどうぞ。


今回の話は、サクラバコのハコさんが30000ヒットのリクエスト絵を受け付けていたときに、
休み時間♪の香林さんがリクエストした絵が話の一番初めのきっかけです。
絵を書いてアップした後に、ハコさんが妄想を書き、
ハコさんの妄想を見た後に、香林さんが妄想を書き、
それを読んでいて、でてきた話を二人に断って書かせてもらいました。

二人の親に恵まれて、沖田姉弟の小さい頃を書くことができて、
ちょっと得した気分です♪二人ともありがとう。

ハコさんのアップしたときのブログ
http://asanohabox.blog35.fc2.com/blog-entry-364.html
香林さんのアップしたときのブログ
http://karinlog.blog37.fc2.com/blog-entry-288.html


ミツバさんの誕生日の話となっています。
視点の主が、近藤さん、ミツバさん、沖田さんと変わる3つのお話になっています。
このページは近藤さんのページとなっています。
他の二人を読みたい方は、下をクリックしてください。
ミツバさん http://blog72.fc2.com/control.php?mode=editor&process=load&eno=475
沖田さん http://blog72.fc2.com/control.php?mode=editor&process=load&eno=476

では、楽しんでいただければ幸いです。
5月26日   1 近藤さん編



誕生日は、

あなたへ、出会えてよかったと伝える日
あなたが、ここにいることを喜ぶ日
あなたに、生まれてきてくれてありがとうを言う日






近藤


「近藤さん」

朝稽古の後で、総悟に呼び止められた。
いつになく真剣な顔をして、総悟らしくもない様子に俺は驚いた。次の言葉を少し考えているようで、珍しくもじもじしている。辺りをきょろきょろと見回して、自分と俺しかその場にいないのを確認すると、そっと手招きした。
「どうした、総悟」
中腰になって総悟の顔へと近づくと、幼い子特有の柔らかい髪の毛が頬を撫でる。総吾は俺の耳元に近寄って内緒話をするように、手を俺の耳によせた。総悟にしちゃずいぶんと子供っぽいなと思いながら、次の言葉を待った。

「近藤さん、お願いしたいことがあるんです」
あの総悟がちゃんとした言葉使いで頼みごとをするなんて初めてのことで、俺はちょっと感動する。
「あの、近藤さん。5月26日はお暇ですか?」
「多分、暇だと思うが。どうした?」
「家に来てくれませんか?おねーちゃんの、姉上の誕生日なんです」
意を決したような総悟の言葉で俺ははっとして、思わず顔を見そうになった。俺の頬に寄せられた総悟の指がちょっと震えていて、俺はそのままの姿勢で総悟に答えた。
「もちろんだ、喜んで寄せてもらう」
頷きながら言った俺の言葉に、総悟は小さな声で心配そうに訊ねた。

「本当ですかィ」

「ああ」
力強く俺が答えるとすぐに総悟は俺から離れて、いつものいたずらな笑顔に戻った。
「近藤さん、本当に来てくれやすかィ」
「ああ、男に二言はない。それに、ミツバ殿にはいつも何かと気を遣っていただいているんだ。本来ならこちらから何かするのが筋ってもんだ」
総悟は俺の言葉を聞いて、うれしそうに笑った。
「なあ総悟、誕生日というなら大勢がいいんじゃないのか」
「近藤さん。近藤さんだけ、でさァ」
また真面目な顔になってそう言うと、もう一度総悟は道場の中を見回して誰もいないのを確認した。

その日は総悟は一日中上機嫌で、いつもなら誤魔化す稽古も率先して張り切っていた。普段とは違いすぎる総悟の様子に、トシは不思議そうだった。総悟に何かあったのかと真顔で俺にトシが尋ねているのを知らぬ顔で素通りして、総悟はトシの草履をつまむとひょいと遠くへ放り投げた。
「て、てめェ、なにしてやがる」
慌ててトシが総悟を追いかると、道場には二人が走り回る音が響いた。
「こら、やめんか二人とも」
大声で俺が二人の間に割って入ろうとするが、あまりにすばしこくて中々捕まらなかった。

総悟はトシの周りをちょこまかと走り回ると、隙を突いて膝の後ろを蹴り上げた。トシが体勢を崩して床に膝をつくと、それを鼻で笑って道場の入り口へと駆け出した。
急いで外へ逃げ出そうとしていた総悟の動きが戸口で止まると、光が射したような輝きが顔に満ちた。
「おねーちゃん」
とっさに家での呼び方が出てしまったことにも気がつかず、総悟は迎えに来た姉のミツバに笑顔を向けた。

「そーちゃん、駄目でしょ。草履を放り投げたりしちゃ」
彼女は総悟の投げた草履を拾い上げ、大事そうに手に抱えて立っていた。
「だって、姉上」
総悟は甘えた声で姉に答えると、いじいじと拗ねたように横を向いた。年相応のそんな仕草に俺は思わず笑ってしまう。姉であるミツバ殿の前でだけで見られる姿だった。

「近藤さん、すみません。そーちゃんったらいたずらばかりして」
近寄ってきてミツバ殿は俺に頭を下げると、総悟には「めっ」と母親のように叱った。
「いやあ、子供のすることだ」俺が笑いながら彼女に答えると、ミツバ殿はまた頭を下げた。
「これ、近藤さんの草履ですか?」
「いや、トシのだ。おおい、トシ」俺がトシを呼ぶと、あいつはいつの間にか道場の隅で素振りなんぞをしていて、聞こえないふりをしていた。
「トシ」
もう一度大声をだしたが、こちらを見もせずに黙々と終わったはずの稽古を繰り返している。

「気にすることはない、どうせ俺のもトシのもボロ草履だ」
「でも」
奥にいるトシへ、ミツバ殿は何か声をかけようか迷っているようだった。
「トシ」
もう一度俺が声を張り上げたが、それを邪魔するように総悟がやってきた。
「姉上、帰りましょう」
総悟は気がつくとすでに身支度を整えていて、俺に頭を下げるとまだ迷っている姉の手を掴んで、ぐいぐいと歩き始めた。ミツバ殿は振り返りつつ総悟と歩いていたが直に笑顔になり、傍らの総悟へ何か話しかけているようだった。はしゃぎながらそれへ総悟は答えているようだったが、急にくるりとこちらを向き一人で駆け出してきた。
「近藤さん、ホントに来てくれるんですねィ」
総悟は息を切らしながら、まっすぐに俺の目を見て訊ねた。
「もちろんだ、約束しただろう?」力いっぱい笑顔で答えて、どんと胸を俺はひとつ叩いた。
「へへっ、約束ですぜ」
総悟はにっと笑うと手を振って、姉の下へとまた走っていった。

「総悟もああしていると、子供に見えるな」二人が仲良く帰っている姿を見て、俺はぽつりと呟いた。
「子供っていうより、ガキだな」
素振りをやめて俺のほうへやってきたトシは、きちんとそろえられた草履をちらりと見て顔をそむけた。
「ああ、ガキだな」素直でないトシへ向けてそう言うと、総悟に言っていると勘違いしているらしくトシは素直に「ああ」と返事をした。


その後、総悟はずいぶんと張り切っているようで、俺に「ケーキの作り方」や「飾り付けの仕方」を教えてくれと頼んできた。俺がこういうことには不向きなのは総悟も十分に分かっているんだろうが、他に訊ねることができる相手が総悟にはいないようだった。
あいつが同じ年頃の男の子と話をまともにしている姿を、俺は想像できなかった。道場や周囲の大人たちの間でならただのいたずらっ子で済む総悟だったが、子供の中ではうまくなじめない様子で、総悟自身も相手を馬鹿にして話をしたくはないようだった。
ミツバ殿は、総悟の張り切っている様子がうれしくて仕方ない様子に見えた。弟のために気がつかないふりをしているが、総悟が俺に出席を頼んだことも承知していた。
「近藤さん、本当に無理しないでくださいね」
ちょっと心配そうな顔をして、迎えに来た総悟がトシと追いかけっこをしているのを、遠くに見ながらそう言った。
「ミツバ殿には俺が無理なんてしているように見えるか。随分と楽しみにしているんだが」
俺が本心からそう答えると、安心した顔になった。
「ふふっ、ありがとうございます」


ミツバ殿の誕生日はずいぶんといい天気になった。
朝から雲ひとつない青空で、総悟が随分と喜んでいるだろうなと空を見上げながら俺は思った。
昼から始まる宴のためにのんびり歩く道すがらも、汗が出るような陽気だった。

「ごめんください」
沖田家の玄関で案内を乞うと、出てきた総悟がほっとしたような顔になった。挨拶もそこそこに、総悟に奥へと通された。
客間の掛け軸のあるべきところに「姉上、お誕生日おめでとう」と総悟が大書した文字が躍っている。紙からはみ出そうな勢いの文字に、総悟の気持ちがこめられているようで思わず笑ってしまう。花瓶には庭のサツキを総悟が折り取って生けたのだろう、随分と盛大に飾られて枝が窮屈そうだった。
長押には色々な紙で作られた輪飾りがぐるりと飾られ、机の上の箸袋には総悟の下手な字で三人の名前が各々書かれていた。
机の上には精一杯の料理が並んでいて、総悟のミツバ殿への思いと、ミツバ殿の総悟への思いが俺にははっきりと見えて、目頭が熱くなった。

「総悟、随分と頑張って作ったのだなあ。俺にはとても真似できんぞ」
総悟はちょっと驚いて、俺の言葉に答えるように得意気な顔になった。
「近藤さん、わざわざ本日はありがとうございます」料理を持ってきたミツバ殿が、俺に気がついて慌てたように頭を下げた。
「いやあ、こんなに立派な会に招待してもらって、俺のほうこそ礼を言うべきだ」
姿勢を正して改めて俺が頭を下げると、それを見ていた総悟は姉の持ってきた料理をつまんで口に放り込んで、ミツバ殿にたしなめられた。
「近藤さん、姉上の作る料理はどれも絶品でさァ」にっこりそう言うと、誕生日会が始まった。

青菜と飾り麩の吸い物、春菊のおひたし、揚げた大根にとろみのついたたれがかかっているもの、厚揚げと野菜を炊いたもの、尾頭付きの焼き魚、鳥のから揚げ、川海老の揚げたもの、鯉の旨煮。苦労して手に入れたのだろう、走りの小さな枇杷がひとつずつ小皿に乗っていた。小さな壷の中にはミツバ殿の好きな唐辛子の粉が入っていた。
どれから食べようかと迷うほどで、俺と総悟は黙々と食べることに集中してしまう。
ミツバ殿は俺たちを見てニコニコとしているだけで、唐辛子をかけているがあまり箸が進まないようだった。
「姉上、すごくおいしいです」
鳥のから揚げを三つも頬張りながら言う総悟に、ミツバ殿は「まあ、そーちゃん」と行儀の悪さをたしなめながらも、目尻が下りっぱなしだった。
「いやぁ、どれもこれも本当にうまい」
「もう、二人とも」ミツバ殿ははにかみながら言うと、「ちょっと待っていてくださいね」と席を立った。

「近藤さん、俺も手伝ったんですぜィ」
「ほう、総悟がか、えらいなあ。一体どれを手伝ったんだ」感心して俺が言うと、総悟の鼻の穴が得意気に膨らんだ。
「鯉と、川海老は俺が捕ってきたんでさァ。鯉はきゅうきゅう鳴いて、おねーちゃんがしめられないって言うから俺がばさーっとやったんでィ」
「たいしたもんだなあ、総悟。ミツバ殿はさぞ喜んでいるだろうな」
去年の総悟の誕生日会に俺は初めて呼ばれたのだが、総悟のはしゃぎようは驚くほどだった。ミツバ殿はそんな総悟の様子がずいぶんとうれしかったようで、その後で何度も俺に礼を言うほどだった。総悟は去年の自分のように、ミツバ殿にも楽しい思いをさせたかったんだろうと思った。

「よいしょっ」
ミツバ殿は大きな絵皿を大事そうに抱えながら部屋に入ってきて、机の上に置いた。
「うわぁ」
「おおっ」
総悟と俺は思わず歓声をあげてしまう。
「ふふっ、ちらし寿司でケーキを作ってみたの。近藤さん、ケーキってこんな感じであってるのかしら?」
二人の様子を見て、笑いながらミツバ殿は言った。
箱型の酢飯の上に錦糸卵が全体を覆って、その上には花の形に切られた人参や大根が載せられ、グリンピースが一粒ずつぐるりと周囲を飾っていた。
「あ、あってるとも。ケーキってこういうもんだ、写真で見たのはまさしくこんな感じだった」
俺も実物を見たことはないんだが、写真で見たケーキは確かにこんな風だった。
「あ、姉上。俺ァ…俺ァ」
総悟は涙目で口ごもりながら言うと、そのまま黙ってしまった。
「そーちゃん、ケーキに見えないかな」首をかしげながら弟の目を見て、ミツバ殿は優しく微笑んだ。姉の言葉に勢いよく総悟は首を左右に振り、涙をこらえてちらし寿司を見た。
「ねえ、そーちゃん。上手に分けてよそってくれないかしら」
総悟は頷くと、慣れない手つきで皿の上に三人分をよりわけた。ちらし寿司は三人分を分けてもまだ十分なほどの量だった。ちらし寿司の中には油揚げや椎茸の煮たのや、蓮根やゴマが中に入っていた。
「随分と豪華だなあ。俺はこんなに立派で旨いちらし寿司は食べたことがないよ」
もぐもぐと頬張りながら俺が言うと、総悟は得意そうな顔になった。
「だから言ったじゃないですかィ。近藤さん、姉上の作る料理はどれも絶品なんでさァ」


そして、ミツバ殿へとプレゼントを渡す段になった。
「はい、姉上」
総悟は近くにあるせんべい屋の激カラせんべいを差し出した。最近売り出した品で、とにかく辛いと評判だった。蕎麦に真っ赤になるほど唐辛子を入れるぐらいがちょうどいいミツバ殿にぴったりの品だ。
「そーちゃん、ありがとう。これが激カラせんべいなのね。すごくうれしい、わたし大事に食べるわ」ミツバ殿は一枚だけ取り出すと、真っ赤な色をしたせんべいをおいしそうに口に運んだ。

俺はなりに選んだのだが、こんなもので喜んでもらえるだろうかと心配だった。女性にあげるなら本当はもっとしゃれたものの方がいいのかもしれないが、何も思いつかなかった。
年頃の女性への贈り物なんて初めてで、総悟に探りをいれたのだが話をしているうちに自分の欲しいものを言い出す有様で、俺は一人で考える羽目になった。
散々迷いに迷って、傘を贈る事にしたのだった。
ある日、ミツバ殿が迎えに来たあとで雨が降ってきて、家にある傘を持たせた。次の日、雨の中総悟を迎えに来たミツバ殿は礼を言いながら傘を返し、「ずいぶんと立派な傘」と褒めた。貸したのはどこにでもあるような男物の傘だった。彼女の傘をふと見ると、何度も張り替えた後があり地紙も随分と変色していた。そういえば、彼女が新しい傘を差しているのを俺は見たことがなかった。
総悟は傘を持つと遊んだり暴れたりで、しょっちゅう骨を折ったり地紙を破いたりしていて新しい拵えになっているのだが、ミツバ殿はいつも同じ傘だった。
俺は店で一番立派な女物の傘を買うと、丁寧に包んでもらった。

「これ、ミツバ殿に似合うといいのだが」
ミツバ殿がよく着ている着物と同じ桃色で、地に花が浮かんでいる。他の女性用よりも大きめで濡れないようになっていると、店のばーさんが勘違いしてニヤニヤしてからかいながら教えてくれた。総悟と二人で入ることもできそうな大きさだった。
「まあ、近藤さん」そう言ってミツバ殿は傘を開きもせずに、じっと眺めていた。
「姉上、開いて見せてくだせェ」総悟が促すと、そうっとこわごわと開いた。
そのまま黙ったままミツバ殿は傘の中で佇んでいて、気に入らなかったのかと俺はちょっと心配になった。

「きれい」

ミツバ殿は開いた傘の中でうっとりとそう言って、くるくると傘を回した。
「花が、咲いているみたいだわ」
傘を止めるると小さな声で呟いて、今度は地紙の花にひとつずつゆっくりと触れた。
「姉上よく似合ってます」総悟は姉を見ながら、小さく何度も頷いて言った。
「近藤さん、こんなに素敵なものありがとうございます。もったいなくて、当分は差せないわ」傘を閉じたミツバ殿は俺に改めて頭を下げると、大事そうに傘を撫でた。


「近藤さん、見ていてくだせェ。来年は俺が姉上にすごいもんを贈りまさァ」
総悟はどこからか紙を持ってくると、そこにケーキの絵を描きはじめた。自分と姉の並んでいる姿や姉の似顔絵を描いて、得意気だった。マヨネーズを描いてにやりと笑うので、
「なんだ総悟、トシがいなくて寂しいのか。だったら」俺が声をかけると大慌てで大きなバッテンをマヨネーズに描いて、そのまま俺の鼻に墨をつけた。
「マヨなんて、端からこうするつもりだったんですぜィ、近藤さん」
「まあ、そーちゃん。駄目でしょ!近藤さん、すみません」
「いやあ、洗えば落ちるから」
俺は慌てるミツバ殿に連れられて洗面台に行き、顔を洗った。
「本当に、すみません」何度も何度もミツバ殿は繰り返すので、俺が恐縮してしまうほどだった。

5月26日


部屋に戻ると総悟は寝転がって、なんだか眠そうだった。俺とミツバ殿が黙って見ていると、じきに小さな寝息が聞こえた。ミツバ殿がそうっと総悟に薄手の布団を持ってきてかけてやると、薄目を開けた総悟は彼女の袂を掴んで、また目を閉じた。
そのまま総悟を二人で見ていると、総悟が初めて道場にやってきたときの様子が思い出された。
「総悟も随分大きくなったな。ここのところ、しっかりしてきた」
「近藤さんのおかげです。そーちゃん、いつも道場でのこと楽しそうに話してくれるんです。道場に通えて随分変わったわ。」むにゃむにゃと呟く総悟を見つめるミツバ殿の目は、いつもと同じように柔らかく姉というよりも母親のようだった。
「近藤さんと出会えて、そーちゃん…本当に、よかった」
「ミツバ殿はよくやってる」腕組みをして頷く俺の顔を、息をのんでミツバ殿は驚くように見た。「なんて、俺が言えた義理じゃないがな」気恥ずかしくなって、俺はがはがはと笑いながら言った。
「何か大変なことや困ったことがあれば、俺に言ってくれ。ミツバ殿も知っての通りの貧乏道場だが、できる限りのことはさせてもらうぞ。人手だけはあるしな」
「近藤さん、ありがとうございます」伏し目がちに黙って聞いていたミツバ殿は、目の端に涙を湛えて俺に礼を口にした。
「先日の他流試合でな、総悟は随分と活躍して相手も感心しててなあ」
「近藤さんったら。そのあと、そーちゃんが相手の方に対していたずらをしたって」
「総悟のヤツ、知恵が回るからなあ」俺がわざと感心しているように振舞うと、何度も聞いた話なのにミツバ殿は笑ってくれた。

「いやあ、総悟にはな、俺も」
ミツバ殿が俺の背後にある何か一点を見ていた。そして、ぼうっとして見つめた後、はっと気がついて顔を赤くして、総悟の方を見るように下を向いた。
俺は、トシが来たのだとすぐに分かった。
振り返ると、むっとしているように口をへの字に曲げたトシは怒っているようにすら見えるが、俺の目には緊張しすぎて精一杯かっこをつけている姿にしか見えなかった。

「遅かったな、トシ」
「近藤さん、遅く来いって言ったろ」
ミツバ殿を見ないようにぼそりと硬い表情で言うトシを見て、これは俺にはからかえないなあと思った。
「なんだ、やけに静かだと思ったら寝てんのか」
「はしゃぎすぎたんだろうなあ。さっきまでは起きてたんだがな」
三人であどけなく眠る総悟を見ていると、普段のにぎやかな情景が嘘のようだった。
「こうしてみると、こいつも普通のガキにしかみえねえな」
「剣をもたせると誰もが驚くほどの使い手になるのになあ」
「使い手っていうよりも、ただの悪ガキだろ」トシが突っ立ったままでにこりともしないで言うところを見ると、昨日総悟に面白半分に前髪を切られそうになったことに、まだ腹を立てているのかもしれない。
「お二人といると、そーちゃんとっても楽しそうだから、わたしうれしいんです」
ミツバ殿は総悟の額にかかった髪を愛おしむ用に撫でながら、じいっと弟の顔を見つめ続けていた。
三人の話のタネになっているとも知らず、総悟は姉の袂をまだ離さずに眠りの中にいた。

そうやってぽつりぽつりと話をしていたが、ミツバ殿とトシが一向に顔を見合わせない様子を見て、俺は気をきかせることにした。
「さあ、俺はそろそろ道場に戻るか」
「じゃあ、俺も」
「トシ、まだお前はゆっくりしていけ。ミツバ殿の手料理をちゃんとご馳走になったほうがいいと思うぞ、総悟も言っていたが絶品だぞ」
俺はトシの手を掴んで、縁側に無理に腰をかけさせた。トシは多分座敷に上がれといえば、上がらずに帰ってしまうだろう。そういうヤツだ。
「じゃあ、ミツバ殿。呼んでくれてありがとう。今日は本当に楽しかった」居住まいを正して頭を下げると、ミツバ殿は総悟に袂をつかまれたままの姿勢で頭を下げた。
「私こそ、本当にありがとうございました。近藤さん、傘大切にしますね」
「うむ、次は総悟の誕生日だな。もしよければうちの道場でやっても構わないだろうか」
俺がそう言うとミツバ殿はぱっと顔を明るくして喜んだ。総吾とよく似た笑顔だった。
「ありがとうございます、近藤さん」頭を俺に下げて「よかったわね、そーちゃん」ミツバ殿は弟を見てそう呟いた。


俺はぎこちない二人をそのままにして沖田家を辞した。
もう夏が来たかのような午後の道だが木陰を選んで歩くとまだ五月の涼しさが残っていて、俺は雲ひとつない青空を見ながら早く雨が降ればいいのにと思った。





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